ここは大川市の外れにある総合病院。
 俺はこの病院の個室で事もあろうか担当の医師に犯されていた。

 

「あ、ああっ!あ…んっ」
「おいおい、いくら特別室で防音があるとはいえ、あんまり大きな声で鳴くなよ。うちのスタッフや患者さん方が報われない恋に落ちるのは気の毒だ」

 自信満々でこんな馬鹿な事を言う性悪変態医師はこの病院の次男坊にして俺の担当医師。更には恋人だったりもする。

「るっ…せ……捨てんぞ、この、変、態野郎……んぁっ!」

 

 事の発端は俺が事故で両足を骨折した事だ。事故の詳細は省く。人死にもなく、順調に示談も進んでいるようなのでそこは問題じゃない。
 問題なのは救急で運ばれた先がこいつが居る潮江総合病院で、文次郎の専門が整形外科だったという事だ。

 当然のように奴は俺の担当となり、相部屋は一杯だからという理由でやや離れたところの個室に入れられた。どう見ても高そうな特別室なのだが、元々大きな病院じゃない。他が空いてないと言われれば入るしかない。差額をこっそりまけてもらえたのはこいつの口添えもあっての事だと思う。……こいつがどんな説明をしたかは考えたくもないが。

 とにかく、俺はこのやや離れた個室で両足をギブスで固定された入院生活を始めた。

 入院生活は実に規則だたしく、三度の食事と定期健診があるが、逆に言うとそれしかない。ただの骨折な俺は暇で暇でしょうがないが、両足の骨折では歩き回る事も出来やしない。
 持ち込んだ本も読み終わってしまい、伊作に新しい差し入れを頼もうかと思ったあたりでそれは始まった。

 最初は動けない俺の身体をさすったり、拭いたりする補助は看護師の方がやってくれていたのだが、何故か担当医の潮江が直々にやると言い出した。もちろんただの介助で終わるはずもなく、きわどい処を触れていったり必要以上に念入りに清めたり……そのくせ決定的な刺激は与えずに終わらせてしまうのだ。

 これはただの介助だといわれてしまえばそれ以上の追及もできず、そんな中途半端が1週間ほど続き、とうとう俺が折れた。

「っ…文次郎……も、限界…」

 この時、奴は確かにニヤリと笑った。

「何だ?要望があるなら聞くぞ。大事な患者さまだからな」

 焦らされ続けて極限状態じゃなかったら確実に殴ってる。だが、この時の俺はそんな余裕なんてなかったんだ。今思い返すとはらわたが煮えくりかえるようなセリフを俺は言った。

「触って……い、挿れて、くれ……」

 消えるような小声だった筈が奴の耳にはちゃんと届いたらしい。わざとらしく一礼したのち、俺の耳元でこう囁いた。

「仰せのままに」

 ギブスで固定した足に負担が掛からないように細心の注意を払って潮江が俺の身体を開く。

 動きがことさらゆっくりなのは焦らす意図でなく、骨折した足を労わっての事だとは分かるが、俺にしてはたまったもんじゃない。文次郎の顔から眼を離すと視界に入ったのは自分の足。固いギブスで覆われた足のふくらはぎの下の方にそれはあった。
  「文」と一文字、両足に書いてあるそれは所有の証。昔から成績優秀で、家業を手伝う為医学部に行き若いながら腕のいい整形外科医として評判のこの男が、子供っぽい独占欲を隠そうともしない事に血が燃えた。
 早く熱い楔を打ち込んで欲しい。自分を所有させる代わりに自分もこの男を所有するのだ。そのためにも早く、早く。

「早く。早く…来い!」

 後ろを丹念にほぐしていた文次郎の動きが瞬間止まる。こちらを見て視線が絡むとごく自然に唇をあわせた。夢中で舌を絡めていると待ち望んだそれがやってきた。

「んーーー!んふ、ふっ…んぁ…」

 僅かな痛みと圧倒的な快楽に、思わず出た歓喜の声は奴の口内に全て飲み込まれてしまう。ゆっくりと埋め込まれる熱の塊は進む程に俺の理性を奪い、替わりに途方もない幸福感を与えた。

「……全部、入ったぞ。分かるか?」
「あ、あ、あああ…いい……あ、もんじっ、文次郎!」
「……っ、動くぞ」

 奥の奥まで満たしていた熱がギリギリまで引き抜かれ、今度は一気に貫く。単純なその動きがたまらなく気持ちいい。
 
 荒い息使いと肉と肉がぶつかる音だけが静かな病室に響く。
 なじんだ行為だが、俺の身体を気遣った動きはいつもよりゆっくり丁寧でどこか物足りない。気遣いなんてする奴じゃないのに。いつものように、飢えた獣みたいにがっついて欲しい。めちゃめちゃにがっついて俺を満たして欲しいのに!
 
「あ…ん、も、んじ…もんじろ」

 なんとか言葉を絞り出し、涙でぼやけた視線を奴の目に合わす。
 
「足りない、こんなんじゃ…もっと、もっ……んぁ!」

 言い終わる前に、俺の内部に埋め込まれた熱がひときわ大きくなったのを感じる。絡まった視線は射殺さんとばかりに真っ直ぐ俺だけを見ていた。医者のプライドか、気遣う動きは変わらないが、先ほどより大きくなった潮江の性器が良い具合に俺の感じるところを突いてくる。
 
 熱い凶器に貫かれ、強烈な視線を浴びながら俺は絶頂した。
 同時に最奥に叩きつけられる熱。
 
「……………っ!」
「あ、あ、あ…んぁ……………っ」

 自分の出した精液が顔に掛かり、室内に青臭い独特の臭いが充満する。
 息が整うまで余韻に浸っていたが、窓の外から聞こえてきた5時の音楽にはっと我に返る。
 
「おい、どけ、抜け!変態医師め」
「恋人に向かって何を言う。足も悪化はさせてねーぞ」
「そういう問題じゃねぇ!ここどこだと思ってやがる!」
「潮江総合病院の特別室だ。多少の防音もしてある」
「いいから早く抜け!さっさと始末しねーと、夕方の見回りあんだろう」
「それも俺の仕事だ。ナースはこんから安心しろ。夕飯まではもう少しあるし、気にせずゆっくりしようや」

 俺の中に居たままの潮江が硬さを取り戻していくのが分かる。
 認めたくは無いが、身体は喜んで潮江を育てようとしているのも分かる。
 俺は、大きなため息をついて現状を受け入れることにした。

「マジで、足悪化させんなよ。…………ギブス早く取りてぇから」
「まかせろ。ギブス取れたら好きな体位で抱いてやるよ」

 割と本気で蹴り入れたかったが我慢した。
 全ては完治してからだ、この分じゃ夕飯の時間にも手を回してそうだし、考えたって無駄だろう。
 
 そう結論を出した俺は、近づいてくる唇を目を閉じて受け入れ、すべてを委ねた。

 

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びょ、病院パロで医者潮江×患者食満でした。
潮江さんゴメンナサイ。

2011.02.24