■一緒に
「死ぬ時はお前と一緒が良いな」
恋人がポツリと呟いた言葉に食満は顔をしかめて聞き直した
「あぁ?何言い出すんだ唐突に」
休み前の夜中、長屋の空き部屋で、いわゆる逢引というものをしている二人にはいささか似合わない話題である。
「俺たちももうすぐ卒業だ。何時までも目を背けてはいられんだろう。」
そう言うと、潮江は食満の肩を抱きぐっと己の側に引き寄せた。
急な引き寄せに身体の均衡を保つ事ができず、潮江の胸に顔を埋める格好になる。
「いきなり何しやが…っ 」
苦情の言葉は降ってきた唇によって中途半端に途切れさせられた。
なじんだ感触、だがいつもの荒々しさは無くまるですがりつくような口付けに食満はそっと潮江の背に手を回した。赤子をあやすようにゆっくりとさすってやっていると潮江はようやく口を離し食満の首元に顔を埋めた。
「…実習の帰り道に、戦場跡を通ってきたんだ。打ち捨てられた死体がいくつも転がっていた。ああなるのが恐い訳じゃない、忍の者の行く末なぞあんなものだろう。だが、」
ぎゅっ、っと食満の身体を抱く力を強くし潮江は続ける。
「お前の屍が野ざらしのまま朽ち果てて行くのは…余り、想像したくない。お前が俺の屍さがして歩く姿もな。」
「なんだそりゃ、お前が先に逝くの前提かよ。しかも俺がお前の屍捜し歩くとか、随分自信あるんだなぁ」
内容に反し、とても穏やかな口調で食満は続ける。
「先の事なんて考えたって仕方ないだろう。こんな世の中だ、仮に共に歩むと誓ったとしても、忍者なぞやってる以上どこでどうなるか分からん。そりゃ俺もお前と一緒にありたいとは思うよ。」
だがな、お前と一緒に死にたいとは思わん。
食満の言葉に潮江は顔を上げる。それはどういうことかと、問うより早く食満は続けた。
「屍を探すかどうかはまぁ置いておいて、一緒に死んでしまったらお前の弔いは誰がやるんだ。…もし、お前が先にくたばったとしたら、その事実をお前の親や友人や学園で世話になった先生方にきちんと伝えたい。潮江文次郎という男が忍びの生をまっとうしたと、伝えて、弔いたい。お前はきっちり弔われて、あの世で俺が行くの待ってろよ。同じ忍び稼業だ、たいして待たすこともないだろうしな。」
「…待ってる間に他の連中もやってきそうだ。」
「それはそれでいいじゃねぇか。地獄巡りも、6人いればきっと退屈しないぜ。」
からからと楽しそうに笑う食満に、潮江はため息を一つついて降参の意を示す。
「ま、死んでも永遠にてのも悪くねぇか。」
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アンニュイな潮江と男前な食満の会話文。
タイトルはこちらのお題からhttp://xx.3.pro.tok2.com/odai100/
2010.11.03